オリガト・プラスティコVOL.5 「龍を撫でた男」  終了しました

              

怪女優広岡由里子と私のユニットであるオリガト・プラスティコ、5回目の公演である。 オリガトでは毎度、かなり偏った、個人的好みで演目をチョイスさせてもらっている。
もちろん決定する前に広岡の検閲が入るわけだが。
今回も、無事広岡の圧倒的賛同を受け、なかなかよそでは観ることのできない作品の上演が実現した。
巨匠、福田恆存の代表作「龍を撫でた男」。初演は昭和27年(文学座)。
十年前に不慮の事故で子供二人を亡くした、倦怠気味の精神病医夫妻。孫の死で彼の母親は発狂。同居している妻の弟は情緒不安定。ある元旦の午後、友人の劇作家が、女優である妹を伴って夫妻の家を訪れる――。 そんな風にして始まる、怪しくてエロティックで、とんでもなくヘンテコリンな戯曲である。60年も前に、福田さんてヒトは、なんたること考えていたんだろう…。
こんな舞台、今やっちゃってもいいんだろうか。まあ、やっちゃうんだけど。


 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

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日時
2012年2月3日(金)〜2月12日(日)
 timetable

    ※各回開場は開演の30分前 未就学児童はご入場できません。

場所
本多劇場
福田恆存
演出
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
キャスト
山崎 一、広岡由里子、緒川たまき、赤堀雅秋、大鷹明良、
田原正治、佐藤銀平、猪俣三四郎

チケット
料金:前売り\5,500/当日\5,800(全席指定・税込)
前売り開始日:2011年12月3日(土)
イープラス (パソコン・携帯)ファミリーマート各店舗Famiポート
チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード:415-295)
ローソンチケット 0570-000-407(オペレーターダイヤル10:00〜20:00)
    0570-084-003(Lコード:34257 自動応答24時間受付)+ローソン各店舗
カンフェティ 0120-240-540(平日10:00〜18:00)
東京音協 03-5774-3030(12/5〜発売 平日10:00〜17:30)
・本多劇場      窓口販売のみ


お問い合わせ:森崎事務所03−5475−3436
                東京音協03−5774−3030

 
              



演出・KERA×女優・広岡由里子によるオリガト・プラスティコの新作が開幕!

 作演出家・ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)と、女優・広岡由里子との演劇ユニット「オリガト・プラスティコ」。その第5弾となる『龍を撫でた男』が、2月3日、東京・本多劇場にて初日の幕を開けた。
 精神病医の佐田家則は、妻の和子とその弟・秀夫、義母との4人暮らし。かつて事故で2人の子供を亡くしており、そのショックから義母は精神に異常をきたしてしまっている。正月、そんな佐田家を訪れた、劇作家の綱夫と舞台女優の蘭子兄弟。綱夫は和子に、秀夫は蘭子に気があり、また蘭子と家則はちょっとワケありのようすだ。5人の思惑が交錯する中、「異常心理学会創立準備委員」と名乗る男たちまでもが現れて……。
 作・福田恆存、演出・KERAという、なんとも意外かつ、ワクワクする組み合わせが実現した。福田は評論家としても著名なだけに、硬い文章を想起する人も多いかもしれない。だが『龍を撫でた男』というタイトルからも分かるように、その文体はどこかユーモラス。さらに人間という愚かな生き物に対する優しい眼差しが、セリフの端々から感じることができる。恐らくKERAが本作に惹かれたのも、そんな点にあったのではないだろうか。そしてKERAは、その福田の世界観を過度に現出させることなく、それでいて行間には彼らしい過剰さもしっかり忍ばせる。もちろんそれを体現できる、KERA作品おなじみの役者陣が担ったものの大きさは言うまでもない。
 夫として、そして精神病医として妻を見守り、そして苦悩を募らせていく家則を演じるのは、山崎一。彼の中に積み重ねられていった、佐田家の負の要素。それゆえの微妙な変化を見せられるのは、やはり山崎の高い演技力あってこそだろう。和子役の広岡由里子、綱夫役の大鷹明良、蘭子役の緒川たまきは、感情の起伏、間合い、話し方など、正気と狂気の境界線上にいる人間ならではの見せ方が絶妙。狂気をさまよう人間の、切なさまでもが伝わってくるようだ。また秀夫演じる赤堀雅秋は、いい意味での気持ち悪さを醸し出し、その存在を強く印象づけた。
 本作の登場人物たちは、山崎演じる家則以外、何かしら皆精神を病んでいる。ゴーリキーの『どん底』の歌詞のように、暗い牢屋の中で、鉄の鎖に捕らえられてしまっているのだ。だが果たして牢屋にいるのは自分なのか、相手なのか。そして人生で真に望むべきものは、新しい冒険なのか、日々の繰り返しなのか。狂気と正気の差はまさに紙一重。辛辣なラストに、その答えを見た気がした。
                    文・野上瑠美子