「国民傘」舞台レポート

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国民傘、開幕しました!

 「国民傘」− この変わった題名のお芝居は、3つのお話が交互に現れ、やがてひとつに溶け合う、群像劇である。国民傘と呼ばれる、政府が国民のために用意した傘を置く傘置き場を動かした罪で囚われの身となる母と娘、ある印刷工場の主人と映画を撮っている弟、その工場の使用人、中隊長を捜してさまよっている三人の若い兵隊、それぞれの物語は、シーンが変わるごとに、本の中の出来事として、また映画の中のお話として、だまし絵のように融け合い、「本当」も「嘘」もあやしくなる。まさしく、「物語」の底は抜け、「物語」は互いに連鎖する。
 見ている私たちは、異国の地で迷子になったかのような、あるいはウサギを追いかけて穴の中に落ちてしまった女の子のような、不思議な感覚を味わう。
 ある国のどこか、戦争は終わったばかり。滑稽で、切ない人生を歩く12人の登場人物たちと一緒に、劇の中に身をゆだねていると、私たちはやがて思わぬ風景を覗き見ることができるだろう。理屈も説明も抜きで、ただ、「感じて」さえいれば。

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撮影:柴田和彦