「窓」舞台レポート

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倉持的恋愛劇、開幕!

  9月16日、東京・本多劇場にて、M&Oplays+PPPPプロデュース『窓』が開幕した。本作はツルゲーネフの『初恋』に想を得て、ペンギンプルペイルパイルズ(以下PPPP)の倉持裕が書き下ろした新作。演出も同じく倉持が担う。
  大学を休学し、いとこの貴枝(ぼくもとさきこ)の別荘で暮らす脚本家志望の清輝(高橋一生)。ある日清輝は、謹慎中の女優・宮丸香澄(野波麻帆)の別荘に招かれる。そこにいたのは、香澄の付き人・生山(近藤フク)と、森定(小林高鹿)、金久(玉置孝匡)、順二(吉川純広)、是松(河原雅彦)というワケあり気な男たち。同級生の菜知(内田亜希子)からは復学を諭されるが、清輝は香澄の世界に引き込まれていき……。
  舞台上には、窓を想起させるいくつかの木枠。そこに登場人物たちが入り込むと、まるで1枚の絵を見ているかのようで、非常に美しい。倉持が「恋愛というテーマに初めて真摯に取り組んだ作品です」と語るように、本作はある意味とても切ない、純度の高いラブストーリーである。一見すると香澄と彼女を取り巻く男たちの想いは、理解し難いかもしれない。しかしその根底に流れるのは、やはり愛。ただそれをどう表現するかが、皆少しずつ違うだけなのである。
  作品の軸を担う香澄役を、野波が説得力のある演技で見せる。彼女のかわいさ、わがままさ、そして心もとなさ。そんな複雑な心情が、野波麻帆の身体すべてで表現されているのである。そんな香澄という異次元に迷い込んだのが、高橋演じる清輝。倉持は「とてもバランスのいい、引き算の出来る役者さん」と、高橋を評する。彼の一歩引いた演技があるからこそ、香澄の世界がよりファンタジー的に際立ってくるのだろう。「役者としても本当に素晴らしい」と倉持が語るのは、近年演出家としての活躍が目覚ましい河原雅彦。本作では役者に徹し、ドSの狂気めいた是松を演じる。そこに愛嬌をにじませられるのは、やはり河原雅彦という役者の大きな強みか。
  PPPPメンバーの小林、玉置、ぼくもとは安定したうまさを発揮。彼らがベースにいることで、倉持の作品世界にブレが生じることはない。その成長ぶりに驚かされるのが、PPPP若手メンバーの近藤と吉川。また菜知役の内田が、いい意味で浮いた存在感を見せる。
  倉持が初めて挑んだ恋愛劇は、人の心という窓を、そーっとのぞき見るような痛さを伴う。果たして香澄と男たちを待ち受ける結末とは? ぜひ劇場で確かめていただきたい。 (文・野上瑠美子)


窓3 撮影:引地信彦